ぱちん、ぱちんとホッチキスが紙をとめる音が響く。 もう時計は5時半を指していた。

「あ、これで最後。」

私が言うと

「ようやくおわったね」

と基山が笑って言った。

「ありがとう。せっかく部活休みだったのに付き合わせちゃってごめんね?」

「いや、いいよ。一人に全クラス分のこの作業をやらせるって先生どうにかしてるんじゃない?」

「確かに。ぶっちゃけ日直関係ないよね。」

二人で顔を見合せいたずらっぽく笑った。 この作業をずっと一人でやっていたらそれこそ最終下校時間になっていたかもしれない。 基山にはお礼をしなくちゃな、なんて思いながら帰り支度をする。 終わった紙束は教卓に置いておけばいいらしいので 作業さえ終わってしまえば後は帰るだけだ。

「基山、ジュースかなんかおごるよ。帰ろ。」

と基山に向かって言うと

「いや、いらない。それよりも、話があるんだ。」

と言われた。 いつになく真面目な声音だったので思わず基山の顔を見ると今まで見たことの無い程に、真剣な顔をし ていた。

「・・・なに?」

と私が聞くと彼は一瞬だけ躊躇う素振りを見せたあとおそるおそる口を開いた。

「緑川と、決別したって聞いたんだけど」

本当? そう聞かれた瞬間、心臓が止まった気がした。 冷や汗がどっとでるのがわかる。 それでも私は必死に表情を出さないようにしていつもの、なにも変わらないよな声で言う。

「決別した、なんて大袈裟だよ。ただ、距離をおいてほしい、って言われただけさ。」

自分で言っておいて息がつまりそうになる。大袈裟だよ、なんて言ったけど感覚的には正直大袈裟なんて思ってはいなかった。

基山はふうん、と言って一度目をそらしたがでも、 と続けてまた私をしっかりと見据えた。

「名字は、辛くないの?」

あ、基山は気づいてたんだ。 なぜかそんな的はずれなことが一番最初に頭をよぎ る。 多分私自身がその質問に答えることを無意識に拒否してしまったのだろう。 答えは、わかりきっているから。

「辛くないとでも、おもうの?」

少し皮肉っぽくなってしまった。 心配してくれているのかもしれないのに基山を不快にさせたかも。なんて思うが傷に塩を塗り込んだのだ。それくらい構わないだろう。

「・・・ごめん。」

基山は悲しそうに目をふせた。 思い沈黙が教室内に漂う。

そして一分くらいはそうしていただろう。 ようやく彼は口を開いた。

「もう、諦めちゃいなよ。」

瞬間、頭にカッと血が上る。 気がつくと私は基山の頬を全力で平手打ちをしてい た。

「そんな簡単な話じゃないんだよ!基山には関係ない!!」

目頭がつん、とあつくなった。 泣きそうだ。もしかしたらもう私は泣いているのかもしれない。 基山の顔をみると、なぜか彼も泣きそうな顔をして いた。

「関係、なくないよ」

「関係ないじゃん!」

「関係なくないってば!」

なんで、と言おうと口を開こうとした瞬間、基山の手で口を覆われて制止される。

「関係なくないよ。俺 、名字の事が好きなんだから。」

思考がフリーズした。

基山は学校でもかなりイケメンだからモテていて性格も良いし頭もよくてもちろん、運動神経もいい。 そんな少女漫画のヒーローのような男だ。 確かに私は緑川と仲がよかったからちょくちょく話 すことはあったがあくまで知り合い程度だろう。

そもそも、私はまるで平均に平均をかけてわったような平凡な子で、釣り合うはずもない。

「なん、で」

情けない声が漏れた。

「・・・緑川が、いつも良いやつだって言うからもともと気になってた。実際に会ってから、それを実感して気づいたら。」

心臓が五月蝿い。 緑川が私をそんなふうに言っていてくれていたのかという喜びと、同時に動揺が私の頭を揺さぶる。 同時に、顔が熱くなった。

きっと今私は真っ赤な顔を晒しているだろう。

「ねぇ、名字」

ふいに、抱き寄せられ耳元で囁くように基山は言った。

「好きだよ。緑川なんて諦めて、俺を見てよ。」

私の中で、何かが動く音がした。

(この手をとって、いいですか?)




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